隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)
「付き合ってもいない相手に服を用意されたら気持ち悪い、って話ですよね」
うん。まぁ、それは……。
桐山くん以外の相手がそんなことをしていたら、そう思っていたかもしれない。
(あ、でも。この前、桐山くんがわたしの服を用意してくれたのに、そんなことを思わなかったな)
きっとあの時点で、無意識のうちに彼を受け入れていたのだ。
というより、受け入れていない相手に抱いて欲しいなんて言えない。
「だけど、相手が桐山くんだから……」
好きな人だから、大丈夫。そういった意味を込める。
直接的な言葉にするのは恥ずかしくて濁してしまった。けれど、わたしの意図は伝わったようで、彼女は目を丸くして、次いで微笑んだ。
「なんだ。ちゃんと愛されているんだ」
愛という直接的な言葉に恥ずかしくなる。
年を重ねるごとに直球で話せなくなるのはどうしてなのだろう。
だけど、彼女の言う通りだった。
ちゃんと桐山くんを好きになったから、彼がわたしを想ってした行動を嫌だと感じなかった。
ーーだからこそ、気になることがあった。
「あの。期限がある、って言っていたよね?」
「ええ、兄の恋には期限があります」
「それはどういうことか……聞いても?」
「本来なら兄がきちんと話すべきだとは思うので、私の口からは言えません。でもね。兄は貴女が聞けば、教えてくれると思いますよ?」
そう言って彼女が差し出したのは一枚のカードキーだった。
「これは?」
「兄のマンションの鍵です。今日帰ってくるみたいだから、行ってやってください」
「でも、勝手に……」
「私、兄からずっと貴女のことを聞かされていました」
「え……」
「本当に耳にタコができるんじゃないかってくらい聞かされてきたんです」
「それは……」
「だからね。会ってもいない桃子さんのこと。私もいつの間にか好きになってしまったんです」
こっそりと内緒話をするように打ち明けられた。
「これは私の贔屓です。でも、その贔屓を引き出したのは貴方の行動ですよ」