隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)
「ーー疲れました」
「ふふ。お疲れ様」
上の階に取っておいた部屋で、彼は上着を脱ぎ、ソファーに深々と座り込む。
すっかりと疲れた様子の彼にお茶を淹れようとしたら、彼に呼び止められた。
「桃子さん」
「ん?」
「その……本当に結婚を取りやめませんよね?」
自信なくわたしを見上げる彼の顔。
眉尻を下げて、懇願するように彼が続けた。
「僕との結婚。絶対にやめませんよね?」
ああ、そうか。
彼は不安になってしまったのか。
自分が隠したかった行動をバラされてしまったから、わたしがやめると言い出さないか怖がっているのだ。
「やめないよ」
そっと彼を抱きしめる。
彼が安心できるように、柔らかく包み込む。
「本当に? 両親の前だから、気を遣っただけというわけでもなく、本当に気が変わっていないんですか?」
「どうして?」
「だって貴女に取った行動。自分でも異常だと思うから。貴女にだけは知られたくなかったのに」
彼ら兄妹は悪意を持って話した訳ではない。後から事実を知るよりも、先に知っておいた方が良いだろうから。
そう言っていた。
でも玲くんからすれば、それは隠しておきたい真実だったのだ。
「玲くんが言ったんじゃない。僕と結婚を前提に付き合ってくださいって。今更なかったことになんかさせない」
「桃子さん……」
「だからね、玲くん」
「はい」
「どうかわたしと一緒に幸せな家庭を築いてはくれませんか?」
「……参りました。桃子さんって、可愛くて格好良いんですね。きっとこの先も僕は貴女に負けっぱなしだ」
「そうかな?」
「そうですよ」
コツリと額を合わせて、キスをする。
「ねぇ、玲くん」
「なんです?」
「玲くんがわたしのことを凄く好きなのもう知っているよ? だからね。今更貴方がどんなことをしていたとしても、わたしは引かないから」
「……参ったな。僕の完敗です」
完敗だと言ったわりには、彼の表情に翳りはない。
それどころか楽しそうに生き生きとしている。
「だったら、この先も全力で愛しても良いんですか?」
僕を受け入れてください、と言われた気がした。
だからわたしは彼から目を逸らすことなく、頷く。
「もちろん」
彼の手がわたしの背に廻る。大切な宝物を手に入れた子供のように、うっとりと彼が微笑んだ。
「抱いても良いですか?」
何を今更わたしに聞く必要があるのだろう。
わたしは彼の頬に手を添えて了承のキスをする。