隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)
エピローグ



「ふ、ふふふ……」

 貰った指輪を世羅達に見せる。

「わぁ。なんか玲兄がこれみよがしに自慢してくるんだけど?」
「今が一番幸せなんだから許してやれ」

 そう言って二人が揃ってワインを飲む。
 たまたま屋敷に帰ってきたら、兄妹が居たので、指輪を見せつけてやったのだ。


「でも、勝ち誇った顔にイラっとしない?」
「まぁ、『桃子さん』からのプレゼントらしいから仕方ないじゃないか。それに、もしフラれでもしたら、玲の奴。地の果てまで桃子さんを追いかけるぞ?」
「え。それは当たり前でしょう?」

 絶対に逃しませんけど、と胸を張れば世羅は渋面を作った。

「本当に逃げられなくて良かったね」

 なんだか棒読みの気がするけど、今日は気分が良い。
 高揚した気分のまま、ワインを嗜む。


「そういえば、桃子さんに『あの部屋』は見せたの?」
「ああ。まだ見せていませんね」
「『あの部屋』ってなんだ?」


 兄が首を傾げる。それに答えたのは世良だ。

「妄想部屋」
「ちょっと、失礼なことを言わないでください!」
「だって本当のことじゃん」
「ひどい名称じゃないか」

 珍しく兄の頬が引き攣る。いつも人を喰ったような態度をしている彼がそんな顔をするのは中々見れるものではない。

「そうですよ。ひどい名称でしょう?」
「ひどいのは玲兄だよ。だって付き合っていない頃から、桃子さんに似合いそうな服とか、鞄とか、喜びそうなぬいぐるみとか集めた部屋なんだから!」
「玲。それ、本当に桃子さんに見せるのか?」

 止めておけ、と兄が視線で訴える。

「え。駄目ですか?」
「わたしなら引く」
「男の俺でも引く」

 二人いっせいに断言されて、僕は固まる。

「そんなん見たら、一生モノのトラウマになりそう」
「っていうか、せっかく上手くいったんだ。悪いことは言わない。止めておけ」

 力説した彼らをじとりと見る。

「じゃあ、なんで僕が片思いの時にしていた行動を顔合わせの時に桃子さんに伝えたんです?」
「あれくらいならまだ救いはあったけど、一室を使ってそんなことされたら、ガチじゃん? 玲兄奇行もほどほどにしないと本当に逃げられるからね」

 ぽん、と肩に手を置かれる。
 それは兄の手だ。


「だから言ったろう? 大人になってからの初恋は拗らせてしまうって」
「え。拗らせています?」

 そう尋ねれば、二人は深々と頷く。


「普通の恋人はね。そんなことしないんだよ」

 なんだろう。四つ下の妹に憐れむような目を向けられた。


「玲。もし逃げられたとしても、心を強く保てよ!」
「ちょっと、結婚間近の弟に、逃げられる前提の話をしないでください!」
「いや、そりゃ……」


 苦虫を噛み潰したかのような兄の表情に、妹の憐れむような視線。
 なにか間違えているのだろうか、と不安になる。
 恋人ってどんな距離感が正しいのだろう……?

 帰ってからこっそりとスマホで検索してみる。

 『恋人 距離の詰め方』
 『大人になってからの初恋 体験談』
 『好きな人に嫌われない方法』など。

 その手の記事を夜通しで見続けた。
 そして次の日には兄妹から神妙な顔で恋愛指南書を届けられてしまったことで、脳裏に『破談』という嫌な文字が過った。
 反省した僕は、桃子さんとの距離を見直してみる。

 けれど、それは彼女からすればあからさまな避け方だったらしい。
 もしかしてわたしと別れたいんですか、と心配を掛けることになってしまった。


「違います。その僕の愛情が重たいと兄妹に言われてしまって……」

 嫌われないように言葉を濁す。
 そうすると、彼女は「嫌いません」と怒った。
 むしろ距離を取られたら心配になっちゃいます、と照れた様子で彼女が告げるものだから、本当に天使なのかもしれないと思った。


***

 後日。その話を兄妹にメッセージで自慢すれば、『心、広過ぎない?』と返信される。
 その話は両親までに伝わったようで、花形家では桃子さんの好感度がカンストしたようだ。

 最近では家族が僕と会うたびに口を揃えて『絶対に桃子さんを捕まえておかなきゃいけないよ』と言われるようになったことを、桃子さんにも話そうと思う。


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