I LOVE YOU~世界中であなたが一番大好きです~

プロローグ

 昼食を終え、皆が眠たくなってくる午後1発目の授業。
 鳳城南高校1年生に所属する、倉橋さやかのクラスも例に漏れず、そこかしこで生徒が船を漕いでいる姿が見受けられた。
 教壇で珍しく教鞭を振るっている養護教諭、高階相馬はパンパンッと自分の手を叩いて音を立てた。

「はい、5限目でみんなしんどいのは分かるけど。俺がここに立って教えることなんて滅多にないんだから、しっかりと起きておくように!」

 今日は月に一度の保健学習。
普段は養護教諭として生徒の怪我や病気に立ち会っている相馬が、各クラスに回って授業を行っている。

「「は~い♡」」

 相馬が話すと、爽やかで端正な顔立ちをしている彼の取り巻きである女生徒から、砂糖を溶かしたような甘ったるい声が返される。
 問題の眠りかぶっている生徒は男子ばかりで、声に体を起こしつつもまた眠りそうになっていた。
 ため息を吐いて気分転換を考えている相馬の顔を見て、さやかは両頬に手をつきながら彼とは別の種類の息を吐いていた。

(かっこいい~……)

 女子高生らしくさやかは相馬の事ばかりを考えていて、夢中になって肝心の授業は頭に入ってこない様子を見せた。

「はぁ、この後は氷室先生の授業か……」

 さやかが心底しんどそうに小声で呟いたのには理由があり、彼女は担任であり数学教師である氷室響也のことを好んでいなかったからだった。
 淡々とした物言いや喋り方、名字に入っている『氷』の字のように冷ややかな顔立ちも相まって、格好いいのに第一印象は怖いというものを抱かれがちな男だった。
 響也が時折相馬と話しているところを目撃されるが、決まって多くの人がそれを聞いて驚くぐらいには真反対のコンビである。

(ずっと今の授業が続けばいいのにな~)

 そう考えていてもこういう時に限って時計の針は早く進み、さっさと次の授業へと移ってしまうのだった。

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