I LOVE YOU~世界中であなたが一番大好きです~
第五話 ロミオとジュリエット
これから演劇が始まろうとしている舞台の観客席。
そこにはさやかの従兄である桐嶋圭吾が座って、彼女の登場を今か今かと待ちわびていた。
彼は忙しいさやかの両親に代わって、長い間親として面倒を見てきた。
圭吾にはほのかという妹もいるのだが、彼はさやかをほのか同様に本物の妹のように溺愛している。
彼女たち、特にさやかのことになると圭吾は冷静ではいられなくなり、感情に見境がなくなるという、シスコンのような一面を持ち合わせている。
そんな大事な存在が主役に選ばれたのだから演劇を見ないわけがなく、題目もロミオとジュリエットということで楽しみにしていた。
さやかから題目を聞いた時、キスシーンがあることに慌てた圭吾だったが、相手が鬼島兄弟に決まったと聞いて落ち着きを取り戻した。
(まぁ、少しでも変なところを見せようもんなら殺すけどな)
——そして、人でひしめき合っている1階とは逆の、ぽつぽつ人が等間隔で立てるぐらいの2階。
あまりライトも当たらないような暗がりで立っていたのは、相馬だった。
彼は他の現場を別の養護教諭に任せ、怪我人が出やすいステージ付近の担当をしているついでに、手が空いている時はステージの鑑賞をしていた。
(次はキョウのクラスか……)
響也の事を親し気に呼んでいるのは、彼らが小学校からの仲だという理由からだった。
響也と話すことで、どうして仲が良さげなのか生徒の間で話をされることが多かったが、それも含めて相馬は楽しんでいた。
(……ん、あれは)
相馬が2階からの人間観察を楽しんでいると、ステージの一番前を陣取っている圭吾の姿が目に入った。
圭吾と響也の2人は高校時代のクラスメイトであったが、まさに犬猿の仲と呼ぶのがふさわしいほど反りが合っていなかった。
概ねさやか目当てで見に来たのだろうが、まさか彼女の担任が響也だとは思ってもいないだろう、と相馬はくつくつ笑う。
「間もなく『ロミオとジュリエット』が開演いたします。お足元が暗くなりますので、無理なご移動はお控えください」
ご丁寧に劇場らしいブザー音が鳴り響き、雑談を楽しんでいた観覧客が一斉に静まり返る。
そして、有名なシーンから内容が始まる。
先にさやかへスポットライトが当たった瞬間、会場のひそひそ声が一瞬盛り上がった。
「あんな子居たっけ……?」
「すごい綺麗な子」
「もしかして倉橋さんじゃない?」
「まさかぁ」
次に響也が出てくると、会場から黄色い声にも近い歓声が飛び出す。
パンフレットには主役として瑛介の名前が書かれていたはずなのに、担任である響也が出てきたのだからサプライズのようなものだろう。
こういった場で教師が出てくる時ほど盛り上がることはないが、期待値が高まったような気がしてさやかはいたたまれなくなった。
「おお、ロミオ! どうしてあなたはロミオなの?」
「ジュリエット……。どうして君はジュリエットなんだい?」
さやかに夢中になって歓声が上がっている理由が分かっていなかった圭吾だったが、ロミオ役の声を聞いて現実に引き戻される。
どこかで聞いたことのあるような声だったが、後ろ姿だけではピンと来なかった。
しかし、鬼島兄弟のどちらでもないことは体格から分かり、途端にソワソワと集中できなくなった。
そんな彼を置いてシーンはどんどん展開していくが、真面目なさやかと要領の良い響也の相性は良く、会場中が彼らの演技を見守っていた。
ついに、ロミオたちはこれから別れるというところでキスを交わそうとする。
会場の皆々が息を飲む中で、圭吾はこれまで感じていたロミオ役の既視感の正体に思い至った。
唇が重なろうとした瞬間、彼は思わず立ち上がって大きな声を出した。
「だめだ!」
しかし、一歩遅く、ロミオたちはしっかりと唇同士を重ね合ってしまった。
圭吾の顔は赤くなったり青くなったりを繰り返していて、そのまま壇上へと上がっていく。
「おい!蓮見だな、てめぇ!」
さやかから剥がすようにして響也を掴んだ圭吾は、もう少し近づけば噛みつくのではないかという距離感で食らいついた。
脇で見守っていたクラスメイトは突然の乱入者に大慌てだが、どうすることも出来ずに立ち尽くす。
観客席はこれも演技の一環なのか違うのかが判断できず、同じくザワザワとすることしか出来ない。
「お前は……桐嶋圭吾……」
2階で事のあらましを見守っていた相馬は、ついに出会ってしまったともいうべき2人に「あらら」と零す。
「てめぇ!さやかになにしてんだ!?」
「何とはなんだ。お前こそ邪魔をしておいてどういうつもりだ?」
互いにさやかとはどういう関係であるのかを知らない2人は、押し問答をしながらいがみ合う。
その麓で、さやかは自分が喧嘩の種になっているとも知らず、響也の顔が眼前にまで近づいたことにポワンと頬を染めていた。
劇が始まる直前、キスシーンに関しては触れない距離で近づき、しているフリだけすると響也から耳打ちされていたさやか。
しかし、圭吾の登場により動揺した響也と少しだけ唇が触れていた。
初めて空き教室で声をかけられたあの日から、彼女の心の中はいつの間にか響也でいっぱいだった。
相馬との一件で既に経験しているからか、自分が響也に恋をしたとさやかが自覚するのは早かった。
まさかのファーストキスを響也で迎えられたことに、彼女は夢見がちな表情を浮かべて幸せそうにする。
「さやか!お前もそんな顔をするな!こらぁ!」
そこにはさやかの従兄である桐嶋圭吾が座って、彼女の登場を今か今かと待ちわびていた。
彼は忙しいさやかの両親に代わって、長い間親として面倒を見てきた。
圭吾にはほのかという妹もいるのだが、彼はさやかをほのか同様に本物の妹のように溺愛している。
彼女たち、特にさやかのことになると圭吾は冷静ではいられなくなり、感情に見境がなくなるという、シスコンのような一面を持ち合わせている。
そんな大事な存在が主役に選ばれたのだから演劇を見ないわけがなく、題目もロミオとジュリエットということで楽しみにしていた。
さやかから題目を聞いた時、キスシーンがあることに慌てた圭吾だったが、相手が鬼島兄弟に決まったと聞いて落ち着きを取り戻した。
(まぁ、少しでも変なところを見せようもんなら殺すけどな)
——そして、人でひしめき合っている1階とは逆の、ぽつぽつ人が等間隔で立てるぐらいの2階。
あまりライトも当たらないような暗がりで立っていたのは、相馬だった。
彼は他の現場を別の養護教諭に任せ、怪我人が出やすいステージ付近の担当をしているついでに、手が空いている時はステージの鑑賞をしていた。
(次はキョウのクラスか……)
響也の事を親し気に呼んでいるのは、彼らが小学校からの仲だという理由からだった。
響也と話すことで、どうして仲が良さげなのか生徒の間で話をされることが多かったが、それも含めて相馬は楽しんでいた。
(……ん、あれは)
相馬が2階からの人間観察を楽しんでいると、ステージの一番前を陣取っている圭吾の姿が目に入った。
圭吾と響也の2人は高校時代のクラスメイトであったが、まさに犬猿の仲と呼ぶのがふさわしいほど反りが合っていなかった。
概ねさやか目当てで見に来たのだろうが、まさか彼女の担任が響也だとは思ってもいないだろう、と相馬はくつくつ笑う。
「間もなく『ロミオとジュリエット』が開演いたします。お足元が暗くなりますので、無理なご移動はお控えください」
ご丁寧に劇場らしいブザー音が鳴り響き、雑談を楽しんでいた観覧客が一斉に静まり返る。
そして、有名なシーンから内容が始まる。
先にさやかへスポットライトが当たった瞬間、会場のひそひそ声が一瞬盛り上がった。
「あんな子居たっけ……?」
「すごい綺麗な子」
「もしかして倉橋さんじゃない?」
「まさかぁ」
次に響也が出てくると、会場から黄色い声にも近い歓声が飛び出す。
パンフレットには主役として瑛介の名前が書かれていたはずなのに、担任である響也が出てきたのだからサプライズのようなものだろう。
こういった場で教師が出てくる時ほど盛り上がることはないが、期待値が高まったような気がしてさやかはいたたまれなくなった。
「おお、ロミオ! どうしてあなたはロミオなの?」
「ジュリエット……。どうして君はジュリエットなんだい?」
さやかに夢中になって歓声が上がっている理由が分かっていなかった圭吾だったが、ロミオ役の声を聞いて現実に引き戻される。
どこかで聞いたことのあるような声だったが、後ろ姿だけではピンと来なかった。
しかし、鬼島兄弟のどちらでもないことは体格から分かり、途端にソワソワと集中できなくなった。
そんな彼を置いてシーンはどんどん展開していくが、真面目なさやかと要領の良い響也の相性は良く、会場中が彼らの演技を見守っていた。
ついに、ロミオたちはこれから別れるというところでキスを交わそうとする。
会場の皆々が息を飲む中で、圭吾はこれまで感じていたロミオ役の既視感の正体に思い至った。
唇が重なろうとした瞬間、彼は思わず立ち上がって大きな声を出した。
「だめだ!」
しかし、一歩遅く、ロミオたちはしっかりと唇同士を重ね合ってしまった。
圭吾の顔は赤くなったり青くなったりを繰り返していて、そのまま壇上へと上がっていく。
「おい!蓮見だな、てめぇ!」
さやかから剥がすようにして響也を掴んだ圭吾は、もう少し近づけば噛みつくのではないかという距離感で食らいついた。
脇で見守っていたクラスメイトは突然の乱入者に大慌てだが、どうすることも出来ずに立ち尽くす。
観客席はこれも演技の一環なのか違うのかが判断できず、同じくザワザワとすることしか出来ない。
「お前は……桐嶋圭吾……」
2階で事のあらましを見守っていた相馬は、ついに出会ってしまったともいうべき2人に「あらら」と零す。
「てめぇ!さやかになにしてんだ!?」
「何とはなんだ。お前こそ邪魔をしておいてどういうつもりだ?」
互いにさやかとはどういう関係であるのかを知らない2人は、押し問答をしながらいがみ合う。
その麓で、さやかは自分が喧嘩の種になっているとも知らず、響也の顔が眼前にまで近づいたことにポワンと頬を染めていた。
劇が始まる直前、キスシーンに関しては触れない距離で近づき、しているフリだけすると響也から耳打ちされていたさやか。
しかし、圭吾の登場により動揺した響也と少しだけ唇が触れていた。
初めて空き教室で声をかけられたあの日から、彼女の心の中はいつの間にか響也でいっぱいだった。
相馬との一件で既に経験しているからか、自分が響也に恋をしたとさやかが自覚するのは早かった。
まさかのファーストキスを響也で迎えられたことに、彼女は夢見がちな表情を浮かべて幸せそうにする。
「さやか!お前もそんな顔をするな!こらぁ!」