先生、それは取材ですか?
名前を呼ばれた瞬間、背筋がぞくっとする。なんか、やばい気がする。
「……なに?」
「いや、ちょっと呼んでみただけです」
橘はいつもの爽やかな笑顔を浮かべているけど、その目はどこか楽しんでいるように見える。
「それで、先生」
「……だから先生じゃなくて――」
「昨日の取材の件、どうします?」
「は?」
「だから、必要なら協力するって話ですよ」
「……」
「先生が本気でリアルな描写を追求したいなら、僕を実験台にしてもいいですよ?」
冗談めかして言う橘に、頭が真っ白になる。
「そ、そんなの……」
「必要ない?」
「……っ」
言い切れなかった。
橘の言葉が脳裏に残っている。リアルな描写を求めるなら、実際に体験するのが一番。そんなことはわかってる。だけど――
「……先生」
橘が少し身を乗り出す。距離が近い。
「試しに、一つだけ取材してみます?」
「……っ」
心臓が嫌な音を立てる。
「例えば――手をつなぐ、とか?」
「……!!」
まただ。昨日のコンビニの時みたいに、不意打ちでそういうことを言ってくる。
「……」
私は、どうすればいい?
この取材を受け入れるべきか、それとも――