孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
いつもの定食屋、昼の混雑を避けたタイミングで空いているテーブルに三人で腰を下ろした。

注文を済ませた途端、あかりと茜の目がギラリと光る。

「で、どこまでやったの?」

突然の直球。
あかりが身を乗り出してきて、紬は箸を落としそうになった。

「えっ?」

「痺れ切らして言うけどさ。手、繋いだ? 抱きしめられた? キスは? ねえ、キスは?」

矢継ぎ早に繰り出される質問に、紬は観念したように、ぽつぽつとうなずいた。

「……うん。繋いだし、抱きしめられたし……キスも……」

その瞬間、あかりと茜は声を揃えて「まじか……」とため息をついたかと思えば、今度はテーブルに突っ伏して「初デートにしては、やるな一条……」とつぶやく。

「でさ、紬は結局どこまで受け入れるつもりなの?」

そう切り込んできたのは、あかりだった。
冗談めかしていた声が、少しだけ真面目になる。

「どこまでって……?」

紬がわざとらしく首を傾げると、2人は一斉に頭を抱えた。

「……あのね、付き合った男女っていうのはね」

あかりが囁くように言う。

「キス以上のことを、求められることがあるのよ。一条さん、今の感じだと――そういうこと、すぐそこまで来てるかもよ?」

茜も「うんうん」と何度もうなずいて、表情は真剣そのもの。

「ど、どうしよう……私、そういうの、全然わかんないし……え、怖い……」
紬は思わず両腕で自分をぎゅっと抱きしめ、縮こまった。

そんな彼女の様子を見て、あかりがそっと声を落とした。

「……だからこそ、嫌なときはちゃんと嫌って言うの。無理はしなくていいのよ。不安なときは、不安って伝えていいの。そういうのをちゃんと受け止めてくれる人かどうかで、本当に大事にしてくれるかがわかるんだから。」

「優しさだけじゃダメなの。ちゃんと、あなた自身を見てくれる人じゃないと」

紬は真剣に聞き入っていた。
あかりの言葉が、茜のまなざしが――姉のように、友達以上に頼もしく感じた。

その日の午後、紬は心のどこかで、もう一度隼人と向き合う準備を始めていた。
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