孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
仕事が一段落した昼前。
紬は、デスクの上の書類を閉じて、ふぅっと小さく息を吐いた。
疲れを流すように背もたれに身を預け、何気なくスマホを手に取る。
画面にはひとつ、未読のLINE通知。

「おはよう。明日、仕事終わったら紬が前教えてくれた和食居酒屋でご飯食べない?」

たったそれだけの、シンプルなメッセージ。
だけど、まるで盛大なプレゼントでももらったかのように、紬の心は一気に華やいだ。
画面を見つめたまま、自然と口元がほころんでしまう。

(私……隼人くんのこと、本当に好きなんだなあ)

自分でそう思って、ふっと小さく笑った。
まるで自嘲のように。
でも、温かい気持ちが胸の奥に広がっていた。

「成瀬先輩、なんか……幸せそうですね。」

突然、横から声をかけられて、紬はびくっと肩を跳ねさせた。
振り返ると、後輩の西田が柔らかい笑みを浮かべて立っていた。

「これ、頼まれてた報告書です。」

「えっ、あっ……ありがとう、西田くん。」

思わずスマホを胸元で隠しながら、紬は照れ隠しのように笑った。
西田はそんな彼女の様子を微笑ましそうに見て、くすっと笑って去っていく。

スマホに目を戻すと、まだ画面には隼人のメッセージが表示されたままだった。
返信を打ちかけて、止まり、また打ち直す。

「うん、行きたい。楽しみにしてるね」

送信ボタンを押した指先が、心なしか少しだけ震えていた。
けれどその震えすら、恋をしている証に思えて――またひとつ、紬は笑みをこぼした。
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