孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
隼人は、何も言わずに隣に座ったまま、ゆっくりと自分の手を差し出した。
掌を上に向けて。

——握るかどうかは、彼女が決めていい。
そう伝えるように、ただ静かにその手を差し出す。

すると紬は、そっと顔を上げ、自分の両腕を広げた。
何も言葉はいらなかった。
それは明確な、抱きしめてほしいという意思表示だった。

隼人はごく自然に、そっと彼女の方へ体を寄せ、片腕を優しく背中へ回す。
もう片方の腕で、包み込むように肩を支える。

柔らかな温もりが、胸元にふわりと触れた。

紬の呼吸が、ほんのわずかに乱れる。
しゃくり上げるほどではない。
けれど、その震えから伝わってくる。

きっと、前よりもずっと静かに——涙を流しているのだろう。
声も、嗚咽もない。ただ静かに、ぽたぽたと。

自分は、その涙を見るために、彼女を抱きしめているのか?
そんな問いが一瞬、心をよぎった。

——違う。

見たいんじゃない。
彼女が、自分の腕の中で、涙を流せるように。
痛みを、少しでも軽くできるように。
そのために、ここにいるのだ。

守らなければならない。
この腕の中にいる、大切な——
とても、とても大切な存在を。

隼人は、そっと紬の背に手を添えたまま、目を閉じた。
部屋の静寂に、ふたりの鼓動だけが、ゆっくりと、溶けていった。
< 132 / 211 >

この作品をシェア

pagetop