孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
箸を動かしながら、隼人がふと顔を上げた。

「すごく久しぶりに、人に料理作ってもらったな。本当にありがとう」

そう言って、優しい笑顔を向けてくる。
その言葉に、紬は思わず照れて目を伏せた。

「忙しくて……実家とか、帰れないの?」

何気なく聞いたその問いに、隼人の手がふと止まる。

「……俺の親、今どこにいるかわからない。家を出て以来、会ってないし。生きてるかも、わからない」

そう呟くように言って、彼は照れ隠しのようにふっと笑った。
けれどその笑顔の奥には、深く沈んだ何かが見えた。
強がっているようにも、何も感じないふりをしているようにも、見えてしまう。

「そうなんだ……」
紬は一瞬言葉を選んで、けれど明るく微笑みながら続けた。

「じゃあ、これからは私が時々こうやってご飯作るよ。きっと慣れたらもっと上手になるし」

その言葉に、隼人の表情が少し驚いたように緩み、やがてゆっくりと綻んだ。

「ありがとう。……俺は、幸せ者だな」

照明の下、湯気の向こうでそう言った彼の笑顔が、いつになく穏やかで、温かかった。
紬はそれを見て、胸の奥がじんわりと温まるのを感じていた。
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