孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
夕食のあとの片付けを終え、2人は並んでソファに座っていた。
お茶の湯気がまだゆるやかに立ち上る中、部屋は落ち着いた静けさに包まれている。

隼人がゆっくりと紬の方へ顔を向けて、「今日、どうだった?」と尋ねた。
その声はとても穏やかで、けれど核心に触れていた。

紬は、すぐにその意図を悟った。
(あのとき、廊下でしゃがみ込んでいた私を見つけてくれた。こうして今、一緒にいるのも、きっとその流れの中にある)

「うん。伝えたいことは伝えられたし、今回は女性の担当者が二人だったから……前より、ちゃんと配慮されてた。話もしやすかったよ」

そう答えると、隼人はそっか、と小さく笑って、「良かった」と一言だけ返した。

しばらくして、紬が少し身体をずらし、ソファの背にもたれかかりながらつぶやいた。

「……私、たまたま聞いちゃったんだけどさ」

隼人が横目で彼女を見やる。

「人事課で、コンプライアンスの話をするときに……なんか言ってくれたんでしょ?隼人くん」

その問いに、隼人はほんの一瞬、言葉を止めたあと、少しだけ目をそらして――わざとらしく肩をすくめた。

「え? そんなことあったかな」

おどけたように笑うけれど、誤魔化し方が不器用で、かえって優しさが滲み出ていた。

紬はその姿に胸がじんわりと温かくなって、ふっと笑った。
そして、ソファから少し体を起こして、隼人の肩に自分の体を預けるようにそっと抱きしめた。

「ほんとに、ありがとうね」

言葉の代わりに、ぬくもりを伝える。
隼人はそのまま、何も言わずにそっと彼女の背に手を添えた。

部屋の静けさの中、2人の間に流れるぬくもりだけが、確かなものとしてそこにあった。
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