孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
ふたりの間に、静かな余韻が流れていた。

隼人はそっと毛布を引き寄せ、紬の肩にやさしくかけてやる。

「大丈夫だった?」

低く、落ち着いた声が耳元で響く。

その音色は、まるで夢と現実の境を撫でるような、穏やかなささやきだった。

紬はこくりと小さく頷いた。

けれど、そのまぶたは半分ほど閉じかけていて、まるでまだ夢の中にいるような表情を浮かべている。

それを見た隼人は、ふっと小さく笑った。

「……まだ麻酔、抜けてないな」

その声に、紬の頬がふんわりと赤く染まる。

隼人は彼女の隣に体を横たえ、片肘をついて自分の頭を支えると、穏やかに身体ごと紬の方へ向けた。

近くで見つめるその顔は、静けさと安堵に満ちていて、何度見ても愛おしさが尽きない。

額にかかる細い髪の束を、指先でそっと払いのけると、紬は小さく顔をそむけた。

「……恥ずかしいから、見ないで」

そうつぶやく声は、どこか甘えているようでもあって。
けれど、その仕草がまた隼人の心をくすぐった。

「もうだめだよ……」

予防線を張るような言葉。
でも、声に力はなく、むしろ受け入れてしまっていることを伝えていた。

「可愛かったよ」

そう意地悪っぽく囁いて、隼人は紬の額に軽くキスを落とした。

紬は再び困ったように眉を寄せ、顔を隠す。
だが、口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。

隼人はゆっくりと腕を伸ばし、毛布越しに紬の腰に手を回す。
そして、そのままやさしく抱き寄せた。

「明日、休みだからさ。……ゆっくり、休もうな」

その声に応えるように、紬はそっと身を寄せ、体温を重ねる。

やがて、彼女の寝息が静かに聞こえ始めた。

隼人も目を閉じる。
ぬくもりを抱きしめるように、深い呼吸をひとつ吐きながら。

――あたたかな夜だった。

交わした言葉も、重ねた体温も、深く静かに心に染み込んでいく。

それは、約束のようでもあり、祈りのようでもあり。

何より確かなものとして、ふたりの絆をそっと包んでいた。
< 178 / 211 >

この作品をシェア

pagetop