孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
ゆっくりと重なった瞬間、紬の瞳には、思わず涙が滲んだ。
それは痛みだけではない、きっと安堵と、温もりと、愛しさがいっしょに押し寄せてきたから。

「……つむぎ」

彼女の名前を、隼人が低く呼んだ。
その声には、抑えきれない感情がにじんでいる。
ひとつひとつの動きに、彼の誠実さが宿っていた。

ただ快楽を求めるのではなく、彼女の心と身体を確かめ、包み込み、まるごと受け止めようとする動きだった。

紬は、彼の肩に腕をまわし、しっかりと抱きしめる。
自分の中に彼を感じるたび、不思議と不安が薄れていった。

「……うん……だいじょうぶ……」

吐息のような声でそうつぶやくと、隼人の動きが少しだけ深くなる。
紬の瞼が震え、小さく声が漏れる。

「っ……ん、……はやと、くん……」

それは甘く震える声で、ふたりだけの夜をゆっくりと染めていった。

隼人は何度も紬の髪を撫で、額に口づけを落とし、頬をそっと拭いながら、彼女が安心できるようにと全身で伝え続けた。
その優しさが、心の奥まで染み渡る。

――やがて、痛みはやわらぎ、代わりにじんわりとしたぬくもりが広がっていく。

紬は初めて知った。
ひとつになるって、こんなにも心があたたかくなるものなんだ。

「……つむぎ、かわいすぎて、もう……」

唇の隙間からこぼれるような隼人の声に、紬ははにかんで微笑んだ。
何も言わずに、その胸に顔をうずめる。

体を預け、心を預ける。
そのすべてが、隼人の優しさに包まれている気がした。

ふたりの呼吸が重なっていく。
心音も、体温も、もう違いがわからないくらいに溶け合っていく。

クライマックスの瞬間――紬の唇から、小さな吐息と共に声が漏れた。

「っ、はや……とくん……っ」

それは、ふたりが完全に結びついた証。
ひとつの命のように、ふたりの想いが、静かに、深く、重なった。

──長く、やさしい夜が、そっとふたりを包み込んでいた。
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