孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない


拝啓 成瀬紬様

このたびは、息子・悠真の件につきまして、何度もお力添えをいただき、心より感謝申し上げます。
事故からの時間が止まってしまったような日々の中で、事務的になりがちな手続きにもかかわらず、成瀬様がかけてくださった一つ一つの言葉に、私はどれほど救われたかわかりません。

「保険のご案内」という言葉が、最初はとても冷たく感じられて、正直に申し上げれば、受け入れがたかったです。
けれど、成瀬様が私の目を見て、「ご家族の気持ちに沿った形で進めますから、どうか焦らず」とおっしゃってくださったことが、今も忘れられません。

心を失いそうになる夜に、ふと思い出すのは、成瀬様が一緒に涙を浮かべてくれた日のことです。
「お母さんが笑えるようになる日を、悠真くんもきっと願っていると思いますよ」と言ってくださったこと、あの言葉で、私は初めて、前に進もうと思えました。

息子を返してほしいという気持ちは、今も変わりません。
けれど、誰かに心を寄せてもらえることが、こんなにも支えになるのだと教えてくださった成瀬様に、心からお礼を申し上げたく、筆を取りました。

本当に、ありがとうございました。

敬具
北村 聖子



便箋の下には、小さく折りたたまれた悠真くんの写真が一枚、添えられていた。

小さなランドセルを背負って、笑っている男の子の姿――それは、かつて紬が事故現場で受け取った資料に載っていた写真と同じものだった。

紬は手紙を胸に抱え、深く目を閉じた。
自分のしてきた仕事が、少しでも誰かの心に寄り添えていたのだと、改めて思えた瞬間だった。

そして、心の奥で静かに誓った。
これからも、この仕事を、誰かのために誠実に続けていこうと。

――あの、笑っている悠真くんに恥じないように。
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