孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
「……あれ、これって先に皮取るんだっけ?」

キッチンに立つ隼人は、慣れない手つきでまな板の上の鶏肉と格闘していた。
包丁の持ち方もどこかぎこちなくて、紬は思わず手を止める。

「隼人くん、それ逆向きに切ってる……!」
「うそ、まじで?」
「しかも、まな板の下にタオル敷いてないと滑るよ? 危ないからちょっと待って!」

料理開始から10分もしないうちに、すでに紬の小さなため息が2回、隼人への注意が3回。
彼は黙って「はい」と素直に言うものの、その後もどこかちぐはぐ。

「……ちょっと包丁貸して」
紬は鶏肉をサッと受け取り、手際よく切り始めた。
その様子を隼人は静かに見つめ、ふっと口元を緩める。

「なに笑ってるの?」
「いや、俺が手伝うって言ったはずが、気づけば怒られながら見てるだけになってるなと思って」
「ほんとだよ。今日のお手伝いポイント、今のところマイナスね」
「厳しっ」

そう言いつつも、紬の横に立って野菜を洗ったり、調味料を出したりと、一生懸命お手伝いに徹する隼人。

「ねえ、これどこにある?」「醤油って薄口と濃口どっち?」「味見していい?」

といちいち聞いてくるのが、なんだか可笑しくて、紬は自然と笑みがこぼれる。

「……もう、見てるだけで可愛いから許す」
「許された」
「でも手はちゃんと動かしてね」

そんな風に、ふたりのキッチンには笑い声が絶えなかった。
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