孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
ベッドの上、灯りを落とした静かな部屋に、柔らかなシーツのこすれる音と、ふたり分の吐息だけが響いていた。

あのあと、隼人は何度も紬に“麻酔”をかけようとした。
そのたびに、紬は甘く蕩けて、でも何とか意識をつなぎとめては、また彼の優しさに引き込まれていく。
気がつけば、何度も夢と現実のあいだを行き来していた。

「おいで」

隼人がそう言って腕を広げると、紬は迷いなくぴたりとその胸に身を寄せた。
耳元で響く心臓の音は、とても穏やかで、静かに、安心を与えてくれるリズムだった。

やがて、自分の鼓動もそのテンポに引き込まれるように、ゆっくりと重なっていく。
不思議な一体感に包まれながら、紬は、かすれるような声で呟いた。

「……隼人くん、大好き」

するとすぐに、彼の胸が小さく揺れる。

「えっ、今なんて言った? もう一回言って」

急に声が明るく弾んで、まるで子供のようにはしゃぎ出す隼人に、紬はあきれたように彼の胸から見上げた。

「……うるさいよ」

口を尖らせて抗議すると、隼人は嬉しそうに笑いながら、今度はしっかりと紬の背中に腕をまわし、ぐっと引き寄せた。

ただ静かに、ぬくもりだけを交換する夜。
言葉がなくても、心はもう、きっと隣にある。
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