孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
旅館の窓から、やわらかな朝日が射し込んでいた。
畳に敷かれた布団の上、紬は隼人の腕の中でまどろみながら、ゆっくりと瞼を開ける。

昨夜の熱が、まだ身体の奥にほんのり残っていた。
優しく触れるような彼の呼吸が、頬にあたたかくかかる。

「……おはよう、隼人くん」

小さく囁くと、彼の腕がぎゅっと強くなる。
そして、すぐ耳元で低い声が返ってきた。

「……おはよう。可愛い紬」

寝起きの声にしてはあまりに甘くて、心臓が跳ねる。
視線を上げると、隼人はすでに目を覚ましていて、穏やかな笑みを浮かべていた。

「昨日、すごかったね……紬が、可愛すぎて」

そう言いながら、隼人の指先が紬の頬に触れ、首筋へ、そして肩口の布団の隙間をなぞる。
優しく、でも確実にスイッチを入れようとしている動きだった。

「っ……ちょ、だめ……」

思わず、紬は彼の胸を手のひらで制した。
少し熱を持った頬のまま、恥ずかしさと照れが混じるように目を逸らす。

「昨日の続きは……なし。今は、だめ」

「なんで?」

隼人が少しだけ眉を下げて、くすぐるような声で囁く。
その声音にもう一度落ちそうになる自分を、紬はぎゅっと自制心で包み込んだ。

「だって……これ以上甘やかされたら、動けなくなっちゃう……」

ぽつりと漏れたその言葉に、隼人がふっと微笑む。
そして、彼の手は紬の髪を撫でるだけに変わった。

「……そうだね。紬が動けなくなるのは、困るもんな」

穏やかな声だった。
でも、その奥にまだ熱を残していて、
いつでも再点火できるような気配が滲んでいた。

紬はふるりと小さく首を振る。

「朝ごはん食べるよ。ちゃんと支度してくれてるって、仲居さんが言ってたでしょ?」

「……うん、わかった」

不満そうに頷く隼人を見て、紬は思わず笑った。
彼の胸に顔を埋めると、優しく腕が包み込んでくれる。

熱はまだくすぶっていたけれど、それはふたりだけの秘密のように、静かに胸の中で眠らせた。

そして、あたたかな朝が始まる――
愛おしさに包まれたまま。
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