策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす

その事態が発覚したのは、十二月の第三水曜日。ランチの営業が終わり、夜の仕込みをしている最中に鳴った一件の電話がきっかけだった。

『食べ残しの料理を使いまわして提供しているという噂が出回っていますが、本当ですか?』

その問い合わせを受けた千鶴はすぐに否定し、不快な思いをさせてしまったことを丁寧に詫びた。

そしてすぐに両親や兄に事情を話して調べてみると、以前悪評が書かれていたグルメサイトだけでなく、様々なSNSにもひだかを酷評するレビューが多く投稿されていた。

【今どき紹介制なんて時代と合っていない】【閉鎖的で、裏がありそう。政治家ってこういうところで賄賂渡してるのかも】という店のスタンスを批判、邪推するものから、【レシピは他店のものを盗んだらしい】【賞味期限や食材の生産地を偽装して客に出している】といったありもしない嘘まで、ここ一週間だけで十数件もの書き込みがある。

店を批評しているというよりも、悪質な誹謗中傷だ。家族揃ってあまりSNSを利用しないタイプのため、こうした書き込みに今まで気づかなかった。

「完全に営業妨害だな」
「誰かの恨みを買っちゃったのかしら」

父は顔を顰め、普段は店を取り仕切る女将としてどっしりと構えている母も、さすがにショックを受けた様子だった。

「どれも捨てアカだから、ひとりだけ変なアンチがついたのか、複数いるのかもわからないな。とりあえず営業妨害に当たる書き込みは、それぞれのサイト運営に削除依頼を出そう」

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