策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす

今から約三ヶ月前、三年間勤めた在フランス日本大使館から外務省の本省勤務へ異動の辞令が出た。

千鶴を忘れられずにいた伊織にとって、絶好のチャンスだ。日本に帰ってきたのだと伝え、天然で鈍感な彼女にもわかるようにストレートな口説き文句でデートに誘い、今度こそ順を追って距離を縮めたい。

しかしそれと同時期に、新たに在日フランス大使に任命されたダニエルから『息子と一緒に、料亭で日本料理を楽しみたい』という頭の痛いリクエストが舞い込んできた。

ダニエルは早くに妻を亡くし、彼女にそっくりだという息子をとても大切にしていると評判だ。しかし当のエリックは、フランス本省内でも有名なダメ息子ぶりで無類の女好き。父親の権威を笠に着て、省内周辺の女性に手を出しては問題を起こしている。

ダニエル自身はとても真面目で、以前は政治安全保障総局のアジア・オセアニア局長を努めていた優秀な外交官だ。そして今はAI教育に関するプロジェクトを日本と共同で進めており、フランスをAI大国に押し上げる立役者となり得る人材だ。

フランスの外務省は息子のスキャンダルなどで彼を失うわけにはいかないため、これまでは周囲がエリックの不祥事を必死に揉み消していたようだ。

そして日本側としても、新たにフランス大使となった彼の息子に問題を起こされるのは困るし、親日家のダニエルが失脚するのは避けたい。彼と友好な関係を築き、その関係性を維持するために、この伊織に課せられたアテンド役は好機だった。

評判のいい料亭を何店舗か選定し、その候補の中からダニエルはひだかを選んだ。運命的なものを感じる反面、エリックがフランスを発つ際に『次は大和撫子と遊んでみたい。貞淑な女ほど、落ちるのは早い』などと仲間に嘯いていたと聞きつけた伊織は、舌打ちしたい気分だった。

< 188 / 213 >

この作品をシェア

pagetop