策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす
エリックのような男を千鶴に近づけたくないが、ダニエルの申し出を断れるはずもない。
半年ぶりに再会した千鶴は、最初こそ驚きと戸惑いが入り混じった表情をしていたが、日本酒や料理について説明する様はいきいきとしていて、仲居の仕事が好きだというのが伝わってくる。
和装姿が新鮮で、伊織が食い入るように見つめるせいか、たまに恥ずかしそうに視線を彷徨わせるのが愛らしい。
改めて千鶴の可愛らしさを実感する一方、危機感も覚えた。彼女の可憐さが、女好きのエリックの目に止まらないはずがない。
案の定、エリックはトイレに立った隙に千鶴を口説いていた。フランス語のわからない彼女には伝わっていなかったが、下品な言葉の羅列に怒りで理性が吹き飛びそうだった。
そんな中、狡猾なもうひとりの自分が〝この状況を利用してしまえばいい〟と囁く。
咄嗟に婚約者のふりをして彼から庇い、言葉巧みに千鶴をレセプションへと連れ出し、周囲に見せつけるように振る舞って外堀を埋めた。強引で卑怯な手を使っているという自覚はありながらも、彼女の心を手に入れようと必死だったのだ。
『この通り、彼女は俺のものです。あなたは人のものに手を出すほど困ってはいないでしょう?』
そう牽制したものの、エリックはその場しのぎの嘘だと気づいているように見えた。そのため、彼が簡単に引き下がらない可能性もある。
あまり警告めいたことを言って挑発していると受け取られても困るため、レセプションではそれ以上の接触を控えたが、もしも再び千鶴に近づこうとするようであれば容赦はしない。