策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす
どうやら、咄嗟に機転を利かせてくれたらしい。仕事相手の婚約者ともなれば、いくら女性に手が早かろうとどうにもできないと考えたのだろう。
(あのフランス語は、そういう意味だったんだ。たしかに、フィアンセっぽく聞こえたかも)
肩を抱き寄せてかばってくれた伊織を思い出す。場違いに胸を高鳴らせた千鶴だったが、話はまだ終わっていなかった。
「それでエリックに、『本当に婚約者なら、明後日のレセプションに連れてこい』と捲し立てられまして」
「……えっ?」
一瞬、彼の発言の意味が飲み込めず、反応が遅れた。それを千鶴が咎めていると受け取ったのか、伊織が心苦しそうに眉間に皺を寄せる。
「申し訳ないのですが、明後日の夜、私の婚約者としてフランス大使公邸のレセプションに出席してもらえないでしょうか」
(こ、婚約者……? フランス大使公邸のレセプション?)
情報量の多さに呆然とする千鶴とは裏腹に、母が「いいじゃないの、それくらい」と弾んだ声を出した。