策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす
信頼できる身辺警護会社から彼女に内緒でSPをつけ、なにかあれば連絡が来るように手配したのも、彼女を守るため。エリックがひだかの店前で騒いでいたのも、ダニエルがお忍びで来店したのも、すべて彼らから報告を受けている。
体格のいい男性ふたりを配置したおかげか、それ以来エリックはひだかを訪れていない。ようやく諦めたかと思っていた矢先の今回の騒動だった。
不愉快な男のニヤけた顔を思い出し、小さく息を吐く。
(必ず彼女を守ると誓って結婚したのに、情けないな)
数日前からひだかの悪評がネットに散見しているのに気づき、これ以上おかしな噂が広がらないよう手を打っていたが、どれだけ削除しようともいたちごっこ。根本的な解決には至らず、千鶴に伝えようにも平日は仕事で帰りが遅く会話もままならない日が続いていた。
結局、落ち着いて話ができたのは今朝のこと。卑劣な脅しの電話をかけてきたエリックや、忙しさを言い訳に対応が後手に回った自分への怒りで目の前が真っ白になりかけたが、それよりも迅速に対応すべきだと頭を切り替えた。
料理も接客も一流のひだかが誰かの恨みを買うとは考えにくい。誹謗中傷の内容もデタラメだらけでかなり悪質だったため、私怨の線が濃厚だと思われる。千鶴の兄は先日店で嫌がらせをした客を疑っていたそうだが、伊織はそれはないだろうと確信していた。
SPからの報告で、嫌がらせをした客が嶋田という大学教授の娘と知った伊織は、即座に彼女が勤める研究所に裏から手を回し、転属という形ですでに日本から去ってもらっている。各サイトに誹謗中傷を書き込む暇も気力もないはずだ。
そうなると、千鶴から聞いた電話の内容を鑑みても、やはり犯人はエリックしか考えられない。