旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 それぞれシャワーを浴びて、私は寝室へ、彼は彼の私室へ戻って、眠りに就いて、碌に眠れず朝を迎えて――なにごともなかったかのように時間が過ぎていく中、私はただ、唇を掠めた吐息のぬくもりを忘れられずにいた。

 節の目立つ指を思い出すたび、私を見つめる彼の瞳も一緒に脳裏に蘇る。胸の高鳴りが止まらなくなる。
 大人のくせに、恋を知ったばかりの幼い少女のような反応をしている。自分で自分をたしなめたくなるほどなのに、鼓動はどこまでも勢いを増していく。

 ――そのくらい、あの接近は、あなたへの恋心を封じたい私にとって禁忌だった。

 発熱に気づいたのは午後の診療が始まって間もなくで、院長から早退を促された。予約数が控えめな平日とはいえ、周囲に迷惑をかけた罪悪感が離れない。普段使っている路線バスに乗ることもためらわれ、結局はタクシーで帰宅した。
 リビングのソファで熱に浮かされている間も、彼の指を思い出しては自分で唇をなぞっての繰り返し。もはやそのせいで熱が出ているのではと訝しくなってくるほど、私の頭は和永さんで埋め尽くされていた。

 そうしてソファでぼうっとしているうち、眠りに落ちてしまっていたらしい。
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