旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「でも良かったです、喜んでもらえてたみたいで。これからもたくさん作りますね」

 口角と声のトーンを無理やり上げて返事をしながら、ちり、と心の奥が痛んだ。
 離婚の意思を撤回してもいないくせに『これから』なんていう言葉を選んでしまったのは軽率だったかも、と苦々しさが過ぎったせいだ。それなのに。

「ありがとう。助かる」

 声がさっきまでより甘い気がして、言葉に詰まる。
 今日のこの人の喋り方、いつもより優しくないか……そう思ってしまったら最後、急速に落ち着かなくなる。
 どういたしまして、と口早に伝えたと同時に、私はちびちび舐めるように飲んでいたグラスの中身をひと息に口内へ流し込んだ。あ、と和永さんが目を見開いた様子が見えたけれど気にしなかった。

 甘くてクラクラする。
 けれどこのクラクラは、ワインの甘さだけのせいではきっとない。

「強くないって言ってただろ、そういう飲み方は良くな……」
「大丈夫ですよこのくら、……ぅん……?」

 慌てた仕種で手を差し伸べてくれた和永さんに、すかさず首を横に振ってみせた途端、くらりと視界が回り始めた。頭の芯がぼうっとする。少しずつ飲んでいたときとは種類の違う反応のせいで、私は咄嗟に口元を押さえた。
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