旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「う……ぐるぐるする」
「ッ、おい」

 酩酊に指先を震わせた私の手元から、空になったグラスが離れる。
 その一瞬、身を乗り出してグラスを掴んだ和永さんの空いた手が、傾いた私の肩まで支えてくれる。

「……っぶねぇな……」

 思わず零れたらしい独り言じみた呟きは、聞いたことのない粗雑な口ぶりで、けれどそれよりも焦った顔のほうが私には意外だった。テーブル越しに大きく身を乗り出した彼の顔を、ついじっと見つめてしまう。

「すみません、……ていうかすごい器用ですね」

 支えてもらったお礼よりも先に、間の抜けた感心の声が零れた。「それはどうも」と堪らずといった様子で噴き出した和永さんにつられて、私も笑ってしまった。
 立ち上がった和永さんに手を引かれ、リビング奥のソファに移動する。別にひとりでも動けますよ、と手を放すこともできたけれど、直前にあれだけ危なっかしい挙動を見せつけた直後だ。おとなしく受け入れた。
 ソファに上体を沈めると、気持ち悪さを伴っていたはずのクラクラが、どこか心地好いそれに変わっていく。

「ちょっと片づけてくる。ひとりで大丈夫か?」

 介護よろしく私をソファまで運んだ後、和永さんが極めて真剣に尋ねてきたから、私はつい唇を尖らせてしまう。
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