旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「非行に走りかけたこともある。夜中に家から抜け出して繁華街をふらつくくらいしかできなかったが、……補導歴でもつけば、祖父母の期待も父親の背中も綺麗に消えてくれそうな気がして」
「……それで、和永さんはどうしたんですか? 補導されたの?」
「されたよ。けどすぐに身元が割れて、結果的に補導自体が〝なかったこと〟になった」

 ありふれた名字でもないしな、と続いた呟きを聞いて、ああ、お父さんもお祖父さんも警察官だってすぐバレちゃったのか、とようやく思い至る。

「ただ、そのときの警官とたびたび顔を合わせるようになって……端的に言えば〝憧れ〟だな。親父と同じ警官なのに、あの人の背中は追いたくなった」
「憧れ……」
「ああ。だから自分の経歴に傷をつけるのはやめにして、おとなしく祖父《じい》さんの敷いたレールの上に戻った」

 レール、とあなたはなんでもないことのように言う。
 けれどそれは、たとえ誰かに用意されたものだとしても簡単に進める道ではないはずで、きっとあなたは想像もつかないほどの努力や苦悩を積み重ねてきたのだろうと容易に想像がつく。そうでなければ、今あなたが望んで身を置いている厳しい世界に、あなたは辿り着けなかっただろうから。

 あなたがいるのはそういう場所だということを、叔父の話を聞かされて育った私は知っている。
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