旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「……そうだな」

 確かに伝えたことがなかったな、と切り出した和永さんの唇を、私は髪を撫でられたままじっと見つめる。

「知ってるかもしれないが、うちは父も祖父も警察官の……まぁそういう家でね。ただ、元々俺は同じ道を進むつもりはなかった」

 え、と目を瞠る。仕事にしか関心がない、と初対面で伝えてきた人の言葉には思えなかったからだ。
 小学生の頃に両親が離婚したこと、激務の父親に代わって父方の祖父母が面倒を見てくれていたこと、学校からも祖父母の家に帰っていたこと、学校生活や進学に関しては父も祖父母も十分にサポートしてくれたこと、特に祖父は自分と同じ警察官の道を目指してもらいたがっていたこと――あなたの声はどこまでも落ち着いていて、自分は今本当に夢を見ているのでは、と不思議な気分になる。

「中学生の頃くらいからかな。敷かれたレールからはみ出さないように歩くのが本当に正しいことかどうか、だんだん分からなくなって……まぁ思春期なら、誰でも多少はそういうふうに迷うものかもしれないが」

 子供だった頃の迷いを語るあなたの声は、まだ酔いに囚われている私の耳に、妙に深く残る。
 完璧に見えるこの人にも幼い頃が、あるいは不安定な時期があったのだと、私は初めてそっと思いを馳せる。
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