旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 言っていることがめちゃくちゃだ。それでも止まらない。
 こうやってあなたに優しくされたら、離れる意思なんてすぐに揺らいでしまう。一緒に帰って一緒に夕食の支度をして一緒にお酒まで飲んで、今までにないくらいいろいろな話をして――こんなに温かくて幸せな気持ちを抱き締めているのに、私はあなたへの離婚の提案を撤回できない。

 あなたが優しくしてくれる、傍にいてくれるこの現実を、私は自分に都合のいい夢なのではと心のどこかでまだ疑っている。その不安を消せないまま、好きだという気持ちだけが馬鹿みたいに膨らんでいく。

 だから怖い。
 あなたと過ごす時間が幸せであればあるほど、その時間が、見る間に弾けて消えてしまいそうで。

「薫子。聞いてくれ」
「……うう……」
「俺はっ、……もし俺に直してほしいところがあるなら言ってほしい、絶対直す、早く帰ってこいとかはすぐには無理かもしれない、でも可能な限り手を尽くす、だから、」

 ――だから泣かないでくれ。

 たどたどしい喋り方も焦りにまみれた表情も、いつもの完璧なあなたらしくなかった。
 それなのに、私はそういうあなたを見ることができてただ嬉しくなる。嬉しい、と思ったら最後、自分から腕を伸ばしてあなたの首に巻きつけてしまう。

 涙を拭われてから触れた二度目のキスは、ほのかに涙の味がした。
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