旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「薫子。今から君を抱く、……いいか」
「っ、あ……」
「いいと言ってくれ。お願いだ」

 唇と唇の間にわずかだけ開いた隙間から零れたのは、許しを乞う懇願めいた声だ。
 嫌だと言われたら引くべきだと思う。それでこそ、彼女が信頼できる〝誠実な夫〟だ――確かにそう思っているのに、止められる気は露ほどもしなかった。

 どうかしている。
 この体たらくで、なにが〝誠実〟だ。

「……はい」

 聴き逃してしまいそうなほどの小さな返事が、確かに鼓膜を掠めた。
 君の目はソファに座っていたさっきから変わらず、どこかぼんやりとしている。酔いの抜けきっていないぼうっとした顔を見る限りでは、自分の声はあまり聞こえてないかもしれないし、明日には酒のせいですべて忘れている可能性だってなくはない。

 それでも、言わずにはいられなかった。
 この人が好きだ。どうしても別れたくない。
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