旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 好き。
 あれほど伝えられずにいた告白が、昂ぶった心のまますんなり口から零れ落ちて、くらりと眩暈がした。

 今あなたと玄関で靴を履いたきり話し込んでいるこの現実が、どこか現実ではないかのような錯覚に囚われ、脚がにわかに震え出す。

「もっと欲張っちゃう前に離れるべきだと思ったんです。私はもう約束を守れないのに、あなたにはいつまでも守らせ続けるなんて、どう考えてもフェアじゃないから……でも」

 でも、離婚届を渡した後から、あなたは見違えるくらい私に優しくなった。
 好きな人から優しくされたら、もっと好きになってしまうに決まっている。私はどんどん逃げられなくなって、あなたに愛してると言ってほしくなって――けれどあなたは、私の我儘を膨らませるだけ膨らませるわりに、肝心の言葉をかけてはくれない。

「和永さん、離婚したくないって言いますけど、結婚する前に言ってたじゃないですか。『期待するな』って」
「……っ、君はいつの話を、」
「いつとか関係ないです。だって、それが私たちの結婚の条件でしたよね」

 私はあなたの『期待するな』という条件を呑んで、あなたは私の『誠実であってほしい』という条件を呑む。それだけが、私たちの夫婦生活において、唯一はっきりした形を成しているものだ。

 それは、私たちには私が思うよりずっとなにもない、ということの裏返しでもある。
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