旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 両親に心配をかけている自覚はある。それに、大学卒業と同時に一度自立したにもかかわらず、また戻っていつまでも実家暮らしを続けているのも気が引ける。

 私の結婚が決まれば、母、それに父も心底安堵するだろう。
 私が結婚に前向きになれなくなった経緯を、両親は他の誰より間近で見ている。今回も、母をあそこまで乗り気にさせたのは叔父だ。ここ三年あまり、両親は私の結婚に関して自分たちから話を振ってくることが一度もなかったから。

 恩返しの手段はなにも結婚だけではない。
 頭では分かっている。けれど、私には他に両親を安心させてあげる方法が分からない。分からないまま、月日だけが無為に過ぎていき、燻るような焦りが静かに膨らみ続けて――ここ三年、私の心境はほぼそれのみだった。

 ざ、と風が吹き、傍で咲く梅の花びらがはらりと舞った。
 梅の薫りが鼻腔を微かに擽る。

「……私は」

 口を閉ざした能見さんは、私の返事を、というより反応を待っているように見えた。
 怯える、呆れる、怒る、あるいはそれでもいいと頷く。彼が提示した一方的な〝条件〟に私がどんな反応を示すのか、黙って観察している。

 この人相手では下手(へた)に取り繕っても仕方がないのかも、と私は腹を括ることにした。
< 16 / 244 >

この作品をシェア

pagetop