旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「自分は基本的に遅くにしか帰りませんし、帰らない日も頻繁にあると思います。暇を持て余さずに済むよう好きに過ごしてもらって結構です。トラブルを起こされるのは職務上困りますが、あなたは育ちも良さそうだ、滅多なことはなさらないでしょうし……ああ、最後に」

 事務的な、用件のみを伝える話し方だ。
 言葉ひとつ挟めないまま、彼の一方的な話は終わりに辿り着こうとしていた。

「今回の話は自分からは断れませんので、お嫌でしたらそちらからお断りください。自分には、あなたはこの縁談に乗り気ではないように見えます」

 最後のひと言が深く耳に残る。
 断りたいなら断っていい、という配慮に聞こえなくもなかった。

 内心を見透かされた気分だった。
 事実、私は今日、叔父と母の勢いに呑まれてこの場を訪れている。結婚に対して憧れを持っているわけではもうないし、別にこの先絶対に結婚しなければならないと思っているわけでもない……ただ。

『第一印象がすべてよ!』
『ここのお庭、今すっごく綺麗なの~!』

 母の高らかな笑い声がふと脳裏を過ぎる。
 さっき個室で聞いたときは煩わしさすら覚えたけれど、母のああいう明るい声を聞いたのは、思えば久しぶりだった。
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