旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 休診明けの診療日はやや忙しなく過ぎていき、最後の患者さんの診療が終わった午後五時手前、できるところから後片づけに回る。

 今日も実家に帰るつもりだ。
 いつまでも母に甘えているのもどうなのかとは思う、とはいっても焦れば焦るほど気持ちの整理がつかなくなるのも事実だ。マンションに帰れるだけの――面と向かって和永さんと話をするだけの気概は、私にはまだ湧かない。
 スマホはあの夜以来見ていない。なくてはならないものだと思っていたのに、案外簡単に断ててしまった。

 仮に和永さんから連絡が届いていても、今の自分では感情が先走って碌なことが言えない気がする。逆になにも届いていなかったとして、それはそれで私の我儘を増幅させる材料にしかならない。
 だから見ない。分からないままにしておきたい。電源を落とした端末を肌身離さず持ち歩いている自分は、我ながらなかなかに滑稽だけれど。

「……見さん。おーい能見さーん」

 考えごとをしながら事務机の整頓に耽っていたせいで、反応が遅れた。
 いけない。いつの間にか隣で思いきり私の顔を覗き込んでいた板戸さんに、私は「はい」と慌てて返事をする。
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