旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 道すがらスマホを取り出し、電源を入れた。
 歩きながら起動を確認し、母に間もなく着くという旨のメッセージを手短に送り、それから端末内の電話帳を開く。

 あなたの名前をタップしかけたのに、指はそれきり動かなくなる。
 かけるかどうか迷う。一昨日のやり取りの記憶が後ろめたさになって邪魔をしてくるせいで、なかなか覚悟が定まらない。

(やっぱり、家に着いてから)

 間もなく家に着くという頃になってから決心した、その瞬間だった。
 バッグにしまいかけたスマホが、ぶるぶると小刻みに震え出したのは。

「っ、あ……」

 バッグの中に落としそうになったそれを慌てて握り直す。例の非通知着信かも、と一瞬だけ怯んで、けれど画面に表示された名前が目に留まった途端、あ、と思わず声が零れた。
 自分でもはっきりそうと分かるくらい盛大に、くしゃりと目元に皺が寄る。

 表示されていたのはあなたの名前だった。私が今、一番話をしたい人の名前。
 私がスマホの電源を落としている間にも、もしかしたらこうやって電話をかけてくれていたのかもしれない。

 あなたは私が思うよりもずっと私を大切にしてくれている――分かっていた。
 そんなことはもう、十分すぎるほど。
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