旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 足を止め、震える指で通話ボタンをタップする。

「も、もしもし」
『あ……薫子。俺だ』

 電話越しに聞こえてきたのは、出てもらえると思っていなかったと言わんばかりの、緊張の滲んだあなたの声だった。
 一昨日の夜に直接話したはずなのに、随分久しぶりに声を聞いた気がしてならない。涙が零れるとき特有のつんとした喉の痛みも手伝ってか、はい、という私の返事はガサガサのみっともない声にしかならなかった。

『ずっと通じなくて心配だった。その、君の実家にもかけて、お義母さんと話もして、まだ帰っていないと話してたから、……ええと』

 あなたの喋り方は妙にたどたどしくて、らしくないな、と思う。
 記入済みの離婚届を置いて出勤した日もそうだった。結婚記念日からまだひと月も経っていないなんて、と場違いにも笑ってしまいそうになる。

「心配かけてすみません。あの、母、なにか余計なこと言いませんでしたか」
『いや。なにも』
「……本当に?」
『ああ。〝口を挟まないって娘と約束してる〟とだけ聞いてる』

 穏やかに告げられ、涙を堪えきれなくなった。
 あの勢い任せのお母さんがそんなことを、と思ったら涙は次から次へとどんどん溢れてきて、自分が道の真ん中に突っ立って通話していることを忘れそうになる。
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