旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
『自分にはなにも期待しないでほしい』
『自分も、あなたにはなにも期待しません』

 初めて会った日に眉ひとつ動かさずそう告げたあなたと、私の目の前にいる今のあなた……もしかしたら別人なのでは、と疑ってしまいそうになる。
 どこか苦しげに眉を寄せ、あなたはゆっくりと私の肌をなぞっている。まるで私を愛しているとでも言いたそうな、ひどく恭しい仕種に見える。

薫子(かおるこ)

 腰に馬乗りになったあなたが、長身を大きく屈めて耳元で囁く。
 名を呼ばれ、危うく腰が跳ねるところだった。掠れたあなたの声が耳に甘く溶け、私は慌てて顔を背ける。けれどすぐに大きな手のひらが頬に触れ、真上に向き直されてしまった。

 目を逸らすな、と暗に言われている。
 あなたの無言の懇願は、私をどこまでも従順にさせる。

「……和永(かずなが)、さん、」

 顔が熱い。久しぶりに飲んだお酒のせいだけでは、きっとない。
 肌を掠める吐息、首筋をなぞる長い指、私を見下ろす熱のこもった視線――そのどれもが私の身体を熱くする。気を抜けばその途端、甘い声を漏らしてしまいそうになるほど。

 こんなに近くにあなたを感じるのは初めてだ。
 長い指が辿っていた首筋に、今度はあなたの唇が触れる。
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