旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「おいッ!!」

 助手席側に回り込んできた比留川に、きつく腕を掴まれる。もう片方の手には刃物が握られていると分かっていたのに、私は渾身の力を振り絞って比留川の腕を振り切った。
 ぶん、と大きく勢いをつけて腕を払うと、比留川はわずかに怯んだらしくぐらりと体勢を崩した。その隙を逃がすことなく、私はあなたに向かって走り出す。

「薫子!!」

 あなたが私を呼んでいる。
 見たこともないくらい焦った顔で、私に腕を伸ばしている。

 もつれた足を無理やり前に踏み出した。あなたもまっすぐ私に向かってきてくれている。こんな緊迫した状況なのに、つい笑ってしまいそうになる。
 ようやくあなたの腕に触れた途端、ガタガタに震えた私の身体は、あなたのたくましい腕にきつく閉じ込められた。

「怪我は?」
「……どこも、なにも」

 短く尋ねるあなたの声は震えていた。
 触れた手も思ったよりひんやりしていて、ああ、けどこれって緊張のせいで私の体温が上がってるだけなのかも、と想像が巡る。

 口汚く私を罵っていた比留川の声が、不意にふつりと途絶える。
 たくましいあなたの腕に抱きかかえられながらぼんやりと視線を向けた先で、複数の警察官たちが比留川を拘束しているさまが見えた。

 それきり、緊張の解けた私の身体は、へなへなとあなたの腕に全体重を預けてしまった。
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