旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 ミラー越し、後方に続いていた乗用車が数台慌ててこの車を避けていく。
 さらにその後ろからまっすぐこの車についてきたのはパトカーだった。前からも後ろからも、私たちが乗っている車は見る間に警察車両に囲まれる。

「クソが……あっテメェどこ行きやがる、勝手に……おい!!」

 完全に停車した瞬間、私は比留川の怒声を最後まで聞き入れることなく、死にもの狂いで助手席のドアを開けた。そして彼の怒鳴り声に萎縮しそうになる身体、特に手足を叱咤し、車から転がり出るようにして降りる。
 私を逃がすまいと運転席から飛び出した比留川の手には、抜き身の刃物が覗いていた。
 隠し持っていたらしいそれは、鋭利なナイフに見えた。震えを耐えるためにきつく噛んでいた唇から、とうとう痛みの感覚すら抜け落ちていく。

 前方に停まる数台のパトカーまでそれなりの距離があるのに、はっきり見えた。
 うち一台はパトカーではなかった。一度乗ったことのある車――その前に立つひとりの男性に焦点が定まる。この物騒な風景の中でそこだけに目を引かれ、それきり、私の目にはもうあなたしか映らなくなる。

「和永、さん、」

 脚をただ前に出すこと、それだけに集中する。
 途端に、比留川の怒声が再び耳を劈いた。
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