旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 ――家に着いたのは、午前〇時をとうに過ぎてからだった。

 いつもなら寝ている時間だ。それなのに、あまりにもいろいろなことが一度に起こりすぎたせいか、眠気はちっとも湧かなかった。
 マンションに到着して、車を降りて、エレベーターに乗って、玄関の前まで歩いて……その間、和永さんは私の手を一度も放さなかった。

 ふわふわと浮つく意識をなかなか拭えない。けれど玄関に足を踏み入れた瞬間、全身から一気に力が抜けた。
 なんとか繋いでいた糸がぷつりと切れたような、あるいは身体の芯がひと息に溶けてしまったような感覚が、霞む意識の端を緩慢に過ぎっていく。気が抜けたせいで床に崩れ落ちそうになった私を、すかさず和永さんが支えてくれる。

「っ、薫子」

 大丈夫か、と焦りを滲ませて尋ねてくる彼の声はどこか遠い。
 は、と浅く息を吐き出しながら、私はなんとか返事を口にする。

「すみません、……家に着いたんだって思ったら、気が抜けちゃって」

 今の今まで、どんなに怖くてもどんなに緊張していても浮かばなかった涙が、ぼたりと頬を零れ落ちていく。
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