旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 昼にかけた電話には応じてもらえなかった。
 彼の勤務中に電話をかけるのは初めてだったし、出てもらえないだろうことももちろん理解していた。
 もしかしたら、今日は早く帰ってきてくれるかも――そういう期待は持ってはいけないと分かっている。私たちは〝お互いになにも期待しない〟という約束で結婚した夫婦なのだから。

 盛りつけた料理をダイニングテーブルに並べ終えたちょうどそのとき、スマホが高らかに鳴り始め、私はびくりと背を震わせた。
 通話の着信を知らせる通知音だ。緊張とともに画面を確認した後、コール音が途絶えてしまう前にと急いで通話に応じる。

「も、もしもし。すみません、まだお仕事中ですよね」
『手短に頼む。用件は?』

 電話越しに聞く和永さんの声は新鮮で、けれどそのことに感動する隙もないくらい冷たく聞こえて、喉の奥がぴりりと痛む。忙しいのに着信を見て折り返してくれたのかも、と浮かれかけたのはほんの一瞬で、私はなんとか声を絞り出す。

「お忙しいところすみません。あの、もし今日、早く帰れそうなら……」

 一緒に食事をと思って、と伝えた後に降りた沈黙は、いっそ爆音よりも耳に痛かった。

『それだけ?』
「っ、は、はい……」
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