旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 決して長くはない沈黙が重い。
 きっと溜息をつかれている。それ以外の想像は巡らせていられなかった。

『前にも伝えたはずだ。俺の分はわざわざ用意しなくていい、君にとっても負担だろう』

 ほどなくして聞こえてきた溜息交じりの彼の声に、ひゅ、と喉が乾いた音を立てて鳴る。
 電話だからか、なおさら迷惑そうな声に聞こえてしまう。

「っ、でも今日は……」
『悪い。切るぞ』

 そのまま通話は途絶え、しばらくスマホを耳に当てたまま動けなくなった。
 なんの躊躇も感じられなかった。ただ切れる間際に、能見さん、と誰かに呼びかけられるような声は確かに聞こえた。
 忙しい中、わざわざ折り返しの電話をくれただけでもありがたいと考えたほうがいい。職業柄、勤務中に自分の端末を使うというだけでも相当にリスキーなのではとも思う――でも。

 スマホをテーブルに置き、震える吐息を落とした。

 それから、テーブルに並べていた料理をゆっくりと片づけ始める。今日は私ももう食べなくていいかな、という気分になってしまっていた。
 大皿、小皿、ひと皿ずつラップをかけていく。
 それを冷蔵庫に運ぶ間、ぼた、と大粒の涙が頬を伝った。零れ落ちた涙が、手にしていた皿のラップの上で、細い音を立てて弾ける。
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