旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
     *


(結婚記念日だと……!?)

 痛恨のミス。完全に忘れていた。
 電車を降り、足早に街路を進みながら、頭が焦りで満ちていく。普段かかってこない電話があったにもかかわらず思い至れなかったのは、間違いなく自分の落ち度だ。

 そのままふた駅歩いてしまった。ほとんど小走りに向かった先は行きつけの花屋だ。
 ガラス張りの窓から胡蝶蘭と鉢植えの花木が覗き、軒先には数種類の切り花が値札とともにバケツに活けられている。駅前の通りから外れた細道の先に建つマンションのテナントに入った、こぢんまりとした店だ。

「花束を用意してくれ。金はいくらでも出す、とびきり綺麗でデカいやつ」

 開きっぱなしのドアの先へまっすぐに足を進め、店員に声をかける。馴染みの店員がカウンターで作業している姿が、窓越しに見えていたからだ。
 一方の店員は、突如訪れた客の不躾な注文に「はァ?」と露骨に顔をしかめてみせた。

「来店早々モテない男みたいな注文やめてよ、ちゃんと花見て選びな!」
「いいから作ってくれ早急に、頼む」

 苦い顔で、今度は極めて真剣に頼み込む。
 この花屋では、幼馴染の(はる)()が働いている。中学校を卒業して以来、付き合いが途絶えていたが、大人になってから偶然この花屋で再会した。
 仕方ないなぁ、と店内に活けてある花々をぐるりと眺めつつ、榛奈はからかうような調子で話しかけてくる。
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