旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 ……好きな相手の話をするときには、男勝りの顔から恋する乙女の顔に一瞬で変わる。
 本当によく分からない生き物だ。無論、それは榛奈だけに限った話ではない。性別さえ関係ない。

 恋をしている人間のものの考え方自体が、自分にはよく分からない。

「……あいつ何日か泊まり込みで働いてたし、私用のスマホ見てないだけだぞ多分」
「あ、そうなんだ?」

 フォローのつもりで伝えると、榛奈は明らかにほっとした様子で目を細めた。リボンで器用に花束を括る指先から、直前までの物憂げな所作が消えたようにも見えた。
 付き合っているわけではないらしい。織田原とは友人でもあるだけに、榛奈からはときおり相談を求められるが、毎回『そういうことじゃないんだよね』とか『悪いけど的外れっていうか』とか返されて終わる。ならばもう俺に相談するのをやめろ、と思い続けてかれこれ三年が経つ。

 なんだかんだ言いながらも、榛奈は見栄えのいい豪華な花束を作ってくれた。
 支払いを済ませ、綺麗にラッピングされたそれの入った袋を受け取り、帰路を進みながら派手に顔が歪んでしまう。

(……さっぱり分からんな)

 おそらく、織田原は大恋愛の末の離婚がトラウマになっているし、榛奈は〝自分なんか向こうの眼中にもなさそう〟と本気で思っている。
 そういう理解はできる。ただ、共感はどちらにも少しもできない。
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