旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 リビングに続くドアをおそるおそる開いたと同時に、私は息を詰めた。
 ソファに和永さんが座っていたからだ。ワイシャツの袖をまくった格好は、朝、花屋の窓越しにこっそり見かけた姿とほとんど変わらない。変わった点はといえば、ネクタイが外れているくらいだ。

 あれからもう十時間近く過ぎているのに、一体何時に帰って何時からここにいたんだろうこの人、と緊張が胸を過ぎる。
 心なしか、顔色も普段より青褪めて見える。

「おかえり」
「た、ただいま帰りました」

 目が合ったと同時に告げられ、なんとか返事を絞り出す。
 職場で休憩から戻ったときみたいな返事になってしまった。気まずさを覚えた直後、座る和永さんの隣に置かれた袋が目に留まる。

(……なんだろう、あれ)

 随分大きな紙袋だ。
 ドアの前に立ち尽くしたまま、訝しさに目を細める。ちょうどそのとき、和永さんの低い声が耳を掠めた。

「薫子。これは……なんだ」

 クリアファイルに入ったままの例の書類を持ち上げて示しながら、彼が問いかけてくる。
 名前を呼ばれるのはいつ以来だろう。緊張が走ったものの、まぁ訊かれないわけはないか、と努めて冷静に返すことにする。
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