旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 スルーされるなら翌朝自分が食べればいい、と駄目元でやってみただけだったのに、翌朝までにかなりの確率で食べてもらえるし、そのたびお皿は綺麗に洗われているし、なんなら残しておいたメモの下に達筆な字で『ご馳走さまでした』と書き添えてくれていたりして、多分、私はそのやり取りにすっかり浮かれてしまっていた。
 お互いに定型的な文章を、それも手短に記しているだけなのに、まるで文通でもしているみたいで心が躍っていた。

 好き、という感情のひとつひとつが積み重なって、たった一年でこんなに積み重なってしまって――これ以上はもう、私はこの人に提示された約束を守れそうにない。

 和永さんは誠実な人だ。なにも揺らいでいない。
 私が一年前に望んだことを、こうして愚直なまでに果たしてくれている。

(それなのに、私は)

 ふ、と気持ちが翳る。私だけが揺らいでいる。和永さんから見たら度が過ぎているだろう期待を、じりじりと膨らませながら。
 あなたの望んだ関係を壊すべきではないとずっと肝に銘じてきたけれど、もう無理だ。

 緩みかけた涙腺を、顔を上向けることで強引に引き締めてから、私はリビングへ戻る。

「届、書いてくれましたか……え?」
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