旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「……昨日は本当に申し訳なかった。完全に俺のミスだ」

 ミス、と思わず鸚鵡返ししてしまう。
 仕事の話でもしているみたいだ。なんと返したものか、すぐには言葉が見つからない。

「正直に言う。忙しさにかまけて忘れていた。君が電話をかけてきてくれた時点で気づくべきだった、……電話の喋り方も雑で申し訳なかった。今後は気をつける」

 声から覇気が感じられない。反省点の挙げ方も、どことなく企業のコンプライアンス対応を彷彿とさせる口ぶりだった。家に戻ったら記入が終わった離婚届を手渡される可能性ばかり思い描いていた私は、すっかり反応に困ってしまう。

 謝られた上に、さりげなく『今後』という言葉まで出されてしまった。
 このまま離婚の話自体をなかったことにされても困るな、と思わず心が曇る。誠実な彼がそんなことをするとも考えにくいけれど。

「大丈夫ですよ。それ、記入が終わったら渡してください。私が提出しに行きますね」
「……提出?」
「はい。結婚からまだ一年しか経ってませんし、周りの目が気になるようでしたら、全部私のせいにしてもらって構いません。実際に私のせいですし」

 君のせい、と再び鸚鵡返しされる。
 お見合いの日の記憶が、不意に脳裏を過ぎる。あの日は和永さんが一方的に喋って、私は相槌を挟む隙さえ窺えなかった。今はあのときとは逆だ。
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