旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
「じゃあそろそろ、あとは若いおふたりで……ッカ~、これを言える日が来るとはなあ! ガハハ!!」
「本当ね~感激しちゃうわ! 和永さん、娘をどうかよろしくお願いしますねフフフ!!」
「おいおい姉さん、それはいくらなんでも気が早いんじゃないかガハハ!!」

 上機嫌を極めた中年姉弟、ふたり分の高らかな笑い声が耳に突き刺さる。

(叔父さん……それにお母さんまで)

 もはや胃が痛い。額をそっと押さえながら、斜め向かいに座る男性へ、私はおそるおそる目を向ける。
 濃灰色の品のあるスリーピーススーツ、鍛えられていると分かる引き締まった体型、整った目鼻立ち、やや彫りの深い精悍な相貌……目が回る。私ではとても釣り合いが取れそうにないくらい素敵な男の人だ。

 こんな人が自分との結婚を望んでいるなんて、まだ信じられない。

 隣県の県警本部長を務める母方の叔父から、半月前に唐突に提案されたのが、今日のこのお見合いの席だ。
 叔父と、叔父の姉である母に、彼は明らかに気を遣っている。口角こそ微かに上がっているように見えるけれど、目に光が宿っていない。
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