旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 そんな彼の目はとても見ていられず、私は視線を手元に落とす。
 和永さんは手を放そうとしない。私が放さなければどうにもならなそうだ。でも。

(……駄目だな、私)

 自分からは放せないのが私の駄目なところだ。
 躊躇に視線を泳がせていると、今度は指を絡められ、私はとうとう手元すら見ていられなくなる。

 彼の所作に遠慮は感じない。
 困ってしまう。見る間に熱くなる顔を、うまくごまかしきれない。

「せめて昨日の穴埋めをさせてくれないか。もちろん、君の予定がなにも入っていない日でいい、……なんなら半日でもいい」

 指を指で撫でられ、上擦った声が漏れそうになる。
 それを必死に堪えながら、私は言い訳がましく言葉を濁らせる。

「けど私の休み、基本は平日ですし、和永さんのお休みとは合わないかと」
「構わない。合わせる」
「はぁ、……えっ?」

 事情を説明していた口が固まる。
 合わせる? あなたが? 私に?

「……えっ……?」

 どうしよう。今日の和永さんは、本当に様子がおかしい。
 直前までは握られた手さえ直視できずにいたのに、目を見開いたきり、私は呆然と和永さんの顔を見つめ返してしまっていた。
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