旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 診療室の奥にドクターと衛生士が集まりつつある。
 そろそろ、診察前のミーティングが始まりそうだ。

「なんというかその、最後の晩餐……とでもいいますか」
「最後の……晩、え、なんて?」
「いやなんでもないです、冗談です」

 理事長直々の紹介で入職した私は、前職を辞めた理由も含め、さまざまな噂の的にされがちだ。けれど板戸さんは、おそらく私を好いてくれてまではいないけれど、私が貶められるような噂を流すこともしない。
 女性中心の狭い職場で、私はそんな彼女のことを、実はこっそり信頼している。

「代わってくれて本当にありがとうございます。じゃあ私、ミーティング出てきますね」

 電話番よろしくお願いします、と頭を下げ、私は受付を後にした。
 背中の側から「はぁい」と、面倒そうな板戸さんの声が聞こえてきた。
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