旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
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『穴埋めをさせてくれないか』

 あの誘いは、彼の嘘でも、私の都合のいい夢でもなかった。
 誠実な彼はそもそも嘘なんてつかない。私にも、おそらくは他の誰にも。

 私は私で、別れる前のいい思い出作りになるかもと期待が過ぎってしまった。つまるところ自分の欲に負けた。

 結局、約束は日曜の夕方からになった。
 いつも土日に休まない私から、まさか日曜を指定されるとは思っていなかったらしい。気の譲り合いから起きてしまった事故ではあるものの、一緒にディナーに行くことになった。向こうの予定が終わってマンションに戻ったら連絡が入る手筈になっている。

 そんなにすぐまとまった時間なんて作れるのかな、と半信半疑だった面もある。なにせ相手は、警察官になって以来、何年もの間仕事漬けで生きてきた人だ。
 結婚後も帰りはずっと遅かったし、帰らない日もある。そもそも仕事漬けの状態を望んでいるのは他ならぬ本人であって、そこに私がつけ入る隙なんてありはしないはずだったのに。

 私たちの結婚は、和永さんから見れば、元上司が自分の姪を引っ張り出してきて強引に取り決めただけの縁談だ。
 離婚したとして、和永さんが困ることになるとは思えない。家事だって、私がいなくなったからといって回らなくなるわけではまったくない。私が勝手に減らした外注を元のプランに戻せばいいだけだ。
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